最近、不妊治療のクリニックで葉酸だけでなく、ビタミンDの話を聞く機会も増えてきましたね。
みなさんはビタミンDに対してどういったイメージをお持ちでしょうか?
実は現代人に最も欠乏している栄養素の一つにビタミンDが上がっています。
昔、化学か何かで学んだことがあるかもしれませんが、脂溶性のビタミンに分類されます。
今回は、ビタミンDと妊娠をテーマに考えていきます。
ビタミンDには、キノコ類(植物性)に多く含まれるD2と動物性食品と皮膚にあるD3があります。
D2もD3もあまり作用に大差がないため、総称してビタミンDと呼ばれます。
※ここでは大差がないといいましたが、論文によってD3のほうが強い作用を持つという発表もあり、海外ではD2、D3のサプリが販売されている。
まずビタミンDが欠乏するとどんなことが起こるのでしょうか?
・免疫力の低下
・悪玉菌(カンジダ)の増殖
・躁鬱(そううつ)
・ホルモンのアンバランス
・筋肉がつかない
・体重が落ちない
・弱い骨と歯
それ以外にも、糖尿病、がん、そして妊娠に関わると考えられています。
やはり全身に多くの影響を与えそうなビタミンDを無視し続けるわけにはいきません。
ではまずは、ビタミンDが発見された歴史からです。
1922年、E.V.McCollumnにより、タラ肝油の中にクル病治癒因子の栄養因子として存在することが明らかになりました。
発見の順番に従いビタミンD(化合物名:カルシフェロール)と命名され、その後、日光中の紫外線により食品中や動物体内にクル病予防因子が存在することがわかり、これがプロビタミンD(ビタミンDの前駆体)の光照射反応によって生成する物質であることが明らかとなりました。
肝臓、腎臓で連続的に代謝され、活性型ビタミンDとなったあと、標的細胞に運ばれ生理作用を発揮することが明らかになり、現在では副甲状腺ホルモンやカルシトニンなどと同様にカルシウム代謝調節ホルモンの一つとして捉えられています。
そして、1932年にビタミンDの化学構造が解明されました。
天然に存在するビタミンDには、中心骨格となる5,7ージエンステロール(コレステロール骨格のB環部分が開裂した構造に相当する)のD環に結合した側鎖部分の構造のみが異なるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)があります。
紫外線の照射によって、植物や酵母に存在するプロビタミンD2(エルゴステロール)から生成と、動物の皮膚に存在するプロビタミンD3(7ーデヒドロコレステロール)から生成します。
くる病治癒活性に関して、ビタミンD2とビタミンD3はほ乳類においてはほぼ同等であり、通常両者を総称してビタミンDと呼びます。
さて難しい話はこのあたりにして、何をどのくらい食べたら良いか見ていきます。
ビタミンDは脂溶性だから体外に排泄されずに蓄積するといわれますが、何を調べても過剰摂取については書かれていません。
また、摂取上限もすぐに変更されるのであまり根拠もありません。
2015年には4000IUになりました(以前は2000IU、アメリカでは2010年に4000IU)。
おそらくまた上方修正すると考えられています。
その理由は、感染症、免疫疾患、鬱などに対して、ビタミンD投与による効果が続々と発表されているからです。
やはり重要な成分なのですね。
では、ビタミンDの推奨量は国際単位(IU)とマイクログラム(μg)で併記されています。
40IUの生物活性は、1μgに相当する計算です。
4000IUは100μgになります。
食事摂取基準2015年版によると推奨量~上限は18~49歳の男性・女性ともに5.5~100μg/日でした。
よく目にする、良く食べる食品のビタミンD量を一覧にしてご紹介します。
最も多く含まれているのは『あらげきくらげ』ですが、100g中に128.5μg含まれていますので、100μg摂取しようとすると77.8gのあらげきくらげが必要です。大きめ1個のサイズ(乾燥)が0.5gなので、77.8g食べようと思うと156個も食べなくてはいけないので現実的ではないです。
カツオの塩辛は100g中に120μg含まれていますので、100μg摂取しようとすると83.3gの塩辛が必要です。ティースプーン1杯で17gとして、83.3gを食べようと思うとティースプーン5杯です。とてもしょっぱいので食べるのは大変です。
あん肝は100g中に110μg含まれていますので、100μg摂取しようとすると91gのあん肝が必要です。ティースプーン1杯で11g、91gを食べようと思うとティースプーン8.3杯です。まあ食べられないことはないですね。
しらす干し100g中61μg含まれているので、100μg摂取しようとする164gのしらすが必要です。100gのしらすは大人の両手のひらいっぱいに乗せた量ですので、さすがにこれも難しいです。
このように、ビタミンDを食品中から摂取しようとするととても大変です。
しかも毎日のことですので、過剰摂取をすることが到底難しいということはお分かりいただけるかと思います。
しかも食品から摂取したからと言って100%吸収されることはありません。
せっかく摂取したビタミンDの吸収率を上げるには、油と一緒に食べることです。
さらに食事からではない吸収ルート、日光浴をご紹介します。
実は、人にとってビタミンDのいちばん大きな供給源は、皮膚にある7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)です。日光に当たることによって、いちばんの働き者「活性型ビタミンD3」に変わることのできるビタミンD3に変わっていきます。
1.皮膚に紫外線(UV-B)が当たってプレビタミンD3に変換
2.体温によってビタミンD3に変換
3.できたビタミンD3は、タンパク質(ビタミンD結合タンパク質)によって肝臓に運ばれる
こんな感じです。
ここで重要なのは紫外線の存在です。
紫外線には、UV-A、UV-B、UV-Cの3種類があります。
UV-Aは、太陽から届く紫外線の約9割を占め、肌に蓄積的なダメージを与えます。
肌の真皮にまで侵入し、肌のハリや弾力を失わせて光老化を引き起こし、さらにすでにできているメラニン色素を酸化させ、肌を黒くさせる作用もあります。
UV-Bは、太陽から届く紫外線の約1割と少量ですが、肌への作用が強いため、短時間でも肌が赤くなるサンバーン(日やけによる炎症反応)や、数日後に肌が黒くなるサンタン(色素沈着反応)を引き起こす作用があります。
波長が短いUV-Bは、炎症やしみの原因となるだけでなく、肌表面の表皮細胞やDNAを傷つけるなど、生体への影響が強いのです。
UV-Cはオゾン層で吸収されるため地上へは影響はありません。
と、美容的側面の説明はこうなります。
しかし、ビタミンD的側面からすると説明は一変します。
ビタミンD3をたくさん作る紫外線はUV-Bです。
UV-Bは服やガラスを通過できませんので、インドアな生活が多い人、外出時に日焼け止めを塗る人は万年、ビタミンD不足になっているかもしれません。
特に妊活をしている人、成長期のお子様、ご老人などビタミンDが必要な人は、注意が必要です。
我が家では、妻は自分にも子供にも日焼け止めをすぐに塗ろうとします。
それがたとえ通勤時間や保育園の送り迎え程度の時間だとしても・・・。
海水浴など長時間であれば防御する必要もあるかと思いますが、過剰な反応です。
近年、日焼けを嫌い、日焼け止めを頻繁に使うことで、子供のクル病が増えているといわれています。
昔はみんな、真っ黒だったのに・・・。
ではどの程度、太陽光を浴びればよいでしょうか?
一概にどの程度の時間を浴びればよいかは言えず、季節、場所、天候、日内で異なってきます。
まずは冬至や夏至で紫外線の入り方が異なります。
大気層が短いので夏至の頃は紫外線の影響を受けやすく、冬至の頃は紫外線の影響を受けにくくなります。
場所は、赤道に近いほど、高地になるほど強くなります。
また新雪では80%、砂浜では25%反射します。
日陰は日向の50%、屋内は屋外の10%以下です。
雲は80%透過し、水は95%透過し、水深50㎝で40%が到達します。
月によっても紫外線量はずいぶんと変わります。
やはり夏の季節はとても多いですね。
季節だけでなく、環境の変化に応じて、紫外線の量は変わります。
紫外線には紫外線の役割がありますので上手に付き合っていく必要があります。
ちなみに肌の露出度10%、東京で夏に直射日光を30分浴びると、700~800IU(17.5~20μg)のビタミンDが作られるといわれています。
日焼け止めを塗らずに浴びましょう
100μg(4000IU)を目指すには、魚やキノコを食べつつ、太陽光を毎日浴びることで、目標を達成できそうですね。
ここでまた脱線しますが、ネパールでは生まれた赤ちゃんに菜種油を塗り、太陽のもとマッサージをする習慣があるようです。日本の発想とは違い、太陽光から避けるのではなく、太陽とともに生きることを選択したのだと思います。
しかも、ビタミンDは骨や免疫と深い関係があることから健康で丈夫な体つくりをするための行為なのかもしれません。
先日、『ラジエーションハウス』というドラマでも、子供の日焼けを避けることばかり考えている母親の子供が『クル病』であったという話がありました。
皆様、日焼け止めも良いですがいったい何のための太陽で、何のための日焼けなのかしっかり理解しましょう。
では、今度は生化学と生理作用です。
簡単に説明すると、体内にあるアセチルCoA(解糖系やβ酸化より)が代謝され、皮膚にプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)に紫外線が当たり、プレビタミンD3((6Z)-タカルシオール)となり、体温によってビタミンD3(コレカルシフェロール)となり、肝臓、腎臓で変換され、活性化ビタミンD3(カルシトリオール)になり、血液中に入り、トランスカルシフェリン(ビタミンD結合タンパク)と結合し、全身に運ばれます。
食事やサプリで入ってくるのは、ビタミンD3からです。
活性化ビタミンD(カルシトリオール)は、血管に入り、全身を巡ることになります。
リンパ液中の輸送物質であるビタミンD結合タンパク質と結びつき、血液を介して、活性化ビタミンDはさまざまな対象臓器に運ばれます。
活性化ビタミンDは、対象細胞の細胞質受容体にあるビタミンD受容体と結びついてその生体効果を発現します。
活性化ビタミンDは、細胞外から細胞膜を通り、細胞質内に入り、細胞質内にある活性化ビタミンD受容体と結合し、複合体を作り、核内に入り、DNAと結合して転写調節因子として働きます。
このビタミンD受容体は脳、心臓、皮膚、生殖腺、前立腺及び乳房を含むほとんどの臓器の細胞にあります。
生殖腺に受容体を持つということは、その組織にビタミンDが必要であるという証拠ではないでしょうか?
ちなみに下記でも説明しますが、多くの性ホルモンが細胞内受容体を介し、核内に入り、DNAの転写調整因子として働きます。
ビタミンDも性ホルモンも、原料はコレステロールです。
遺伝情報において、ビタミンDや性ホルモン、そしてコレステロールの重要性が理解できます。
ここで受容体のお話をしておきます。
受容体(Receptor)とは、細胞膜表面、細胞質、または核内に存在し、特定の物質(リガンド)と結合することで細胞にシグナルを伝え、応答を起こすタンパク質です。
受容体(Receptor)というように、受容体はリガンド(情報伝達物質)を受け取る(receive:受容する)タンパク質で、レセプター、リセプターとも呼ばれます。
受容体は、細胞外のシグナルを細胞内に伝える仲介役ともいえます。
ちなみに、外界や体内から刺激を受け取る器官(目など)・細胞(においを受け取る嗅細胞など)も受容体と呼ばれる。
種類はたくさんありますが、場所によって分類します。
①細胞膜受容体
②細胞内受容体
細胞膜受容体には、Gタンパク質共有型受容体、イオンチャンネル内蔵型受容体、1回膜貫通型受容体の3つがあります。
細胞内受容体には、細胞質受容体、核受容体の2つがあります。
ビタミンDやステロイドホルモンなど脂質由来の物は細胞膜を通過するため直接、細胞内受容体を使います。
それ以外のものは細胞膜を通過できないので、細胞膜受容体を使い、内部に情報を伝えます。
ちなみに活性化ビタミンD受容体と同じ細胞質受容体を持つのはコルチゾール、アルドステロン、プロゲステロンのステロイドホルモンたちです。
細胞質受容体のもう一つの核受容体、つまり核内に受容体を持つのは、テストステロン、エストラジオールの性ホルモン、甲状腺ホルモン、レチノイン酸(ビタミンA)の誘導体です。
脱線しました。
次に、欠乏症と過剰症です。
近年日本で欠乏症が増加しています。
背景として紫外線による皮膚がん発症のリスク低減や美容を目的として、過度に紫外線を避ける生活習慣が広まった事が原因ではないかといわれています。
実は、妊婦がビタミンD欠乏症であると、胎児にも欠乏症が起きると言われています。
主な欠乏症には、乳幼児・小児期の催奇性・歯牙形成に影響・肋骨や下肢骨の変形を特徴とするクル病があります。
成人では骨の石灰化障害を特徴とする骨軟化症、妊婦の極端なビタミンD欠乏は、高血圧・子癇前症・妊娠性糖尿病、早産のリスクが高まるほか、喘息リスク増加との関連があるといわれています。
また、クイーンズランド大学で行われた調査によると、妊娠中のビタミンDの欠乏が自閉症の発症に大きなリスク要因となり、妊娠第20週までにビタミンDが不足すると胎児が自閉症発症になるリスクを増やすことが明らかとなりました。(Vinkhuyzen et al., 2016)
この研究では、妊娠中の母親とその子供が対象で4229人が試験されました。
6歳以下の子供の社会的反応度スケール(SRS)が測定され、母体中期妊娠血清と新生児血清(臍帯血)から25-ヒドロキシビタミンD(25OHD)が評価されました。25nmol -1未満の25OHD濃度をビタミンD不足群としました。
25OHDが十分である群(25OHD> 50nmol l-1)と比較して、25OHDが不足していた群では、子供のSRSスコアが低い結果でした(妊娠中期n = 2866、β= 0.06、P <0.001; 1712、β= 0.03、P = 0.01)。
この結果から妊娠中のビタミンD不足は、自閉症リスク高めることがわかりました。
これは自閉症を発生させる関連物質の形成プロセスにビタミンDが関与しているからだと推察されています。
今回の結果から妊娠中のビタミンD不足は、自閉症発症リスクが高めるので妊娠中にはビタミンDの摂取が大切だと言えます。
戸外で適度に日照を受けることのできる生活をしている人では、通常食事からのビタミンD摂取が不足してもビタミンD欠乏症はほとんど起こりません。
しかし、日照時間の短い地方に住んでいる人などはビタミンDの摂取不足により欠乏症が起こることがあります。
次に、過剰症です。
ビタミンDの摂取によって過剰症が起こることは稀ですが、その1000倍の生物効力を有する活性型ビタミンDあるいはそのプロドラッグである1α-ヒドロキシビタミンDなどの医薬品の使用については十分な注意が必要です。
ビタミンDを過剰に摂取すると様々な副作用が現われてきます。
主な過剰症としては、高カルシウム血症・軟組織の石灰化・腎障害などがあります。
上記でわかるように、過剰症にくらべて、欠乏症の方が弊害が多いのです。
長々と説明してしまいましたが・・・・
最後に、ビタミンDと妊活の関係性のお話です。
順天堂大学の研究チームが行った報告では、生殖可能年齢の女性においては、血中のビタミンD濃度とAMHの値に相関関係があるという発表をしています。(ここでいう血中ビタミンD濃度は、血中25ビタミンD)
20歳から39歳の女性を対象に調べ、AMHが低い女性≒ビタミンD不足、という結果が得られています。
こうした研究は海外でも多くされています。
閉経前の女性388名を対象に行ったM. Iraniらの研究(Fertil Steril)やその他、Dennis NA、et al.J Clin Endocrinol Metab.2012 での発表においても、同様の見解が出されています。
"女性の季節変動は25(OH)DおよびAMHレベルの両方であり、夏期と比較して冬のAMHレベルは18%低下した。AMHレベルの変化は、最初のAMHレベルおよびビタミンDレベルの変化の大きさと相関した。コレカルシフェロール(ビタミンD3)補充は、季節的なAMH変化を防止した。"
この季節変動がAMHにもあり、これは日照時間に関係があるということです。
例えば、日本の夏場は日が長いですが、冬になると短くなります。
そこで季節によって変動するビタミンDを日照時間の短い冬場に補充したことでAMHの低下を免れたということです。
このように卵巣予備能とAMHには相関関係があることが徐々にわかっており、ビタミンDを摂取することで妊娠に向けてプラスに働くことが大いに期待されます。
他にも妊活でプラスになることがあります。
・卵子の成熟や着床に役立つ
卵子が育たなかったり着床に障害がある場合、ビタミンDを摂取することで妊娠につながるケースがあります。ビタミンDは女性の体内において卵子の成熟や着床を助ける働きをすると言われてるからです。実際に、不妊治療の一環としてビタミンDが処方されることもあるようです。
ビタミンDは卵子の質を保つために重要だというお話をしましたが、精子を元気にするためにも役立ってくれると言われています。
ビタミンD受容体が生殖器を含めた全身の細胞にあることを踏まえれば必要か不必要かは悩む必要もないかと思います。特にDNAの転写に関わるわけですので、染色体異常とも切り離して考えることはできません。
・体外受精の成功率が高まる
実は体外受精が成功するかどうかという時にも、ビタミンDが密接に関わっていると言われています。
体外受精の成功率を見ると、ビタミンDの濃度が上がるにつれて受精率も上がることがわかっています。
男性の精子は卵子と違って毎日新しく作られているので、ビタミンDを摂取るとその分効果も出やすいというわけです。
妊活を始める時にはご夫婦でビタミンDの摂取に取り組むと良いかもしれません。
他にも妊娠中にビタミンDが大切だとわかる研究結果があります。
2014年、イギリスで妊婦さんが妊娠中にビタミンDを高用量に摂取すると、産まれる子の筋肉が強くなる傾向があるということがわかりました。
700人程の調査で、母親が十分にビタミンDを摂取した子とそうでない子の発育を長期にわたり調査し比較したところ、4歳時点の握力や筋肉量の数値に差が出ました。
ビタミンDが子宮内における胎児の筋繊維の発達に関与していると考えられています。
このように、ビタミンDは妊活中、妊娠中や産後の子どもに大切だということがわかります。
ビタミンDは日光に当たることが一番簡単です。
しかし、日焼けなどがどうしても気になるのでしたらサプリメントをおすすめします。
銀のすずでは少しでもご不安を解消できるようカウンセリングもしっかりと行っております。
何かございましたらご質問ください。
銀のすず